中国の「四大奇書」というものをご存知ですか?
「四大奇書」とは、『三国志演義』『水滸伝』『金瓶梅』、そして『西遊記』の4作品を指します。
なかでも日本では、『三国志演義』や『西遊記』は特に馴染み深い作品ではないでしょうか。
とくに『西遊記』は、孫悟空、猪八戒、沙悟浄、三蔵法師といった登場人物をはじめ、如意棒や筋斗雲など、物語を読んだことがなくても知っている名前やアイテムが数多くあります。
しかし、「西遊記ってどんな物語?」と聞かれると、意外と詳しくは知らない方もいるのではないでしょうか?
なぜ孫悟空は三蔵法師とともに天竺を目指したのか。
その旅では、どのような妖怪たちと出会ったのか。
そして長い旅の果てに、孫悟空たちはどうなったのか。
有名な作品だからこそ、知っているようで知らない部分が多いのも『西遊記』の面白さです。
そこで今回は、『西遊記』に登場する悟空たち一行が、どのような経緯で三蔵法師のお供になったのかをご紹介します。
さらに記事の後半では、『西遊記』のその後を独自の解釈で描いたゲーム『黒神話:悟空』にも登場する妖怪たちに注目し、彼らがどのような道を歩んできたのかを紐解いていきたいと思います。
悟空や仲間たち、そして妖怪たちの経緯をたどっていくと、『西遊記』や『黒神話:悟空』の物語も、これまでとは少し違った見え方をしてくるかもしれません。
それでは早速、見ていきましょう!
知っているようで知らない『西遊記』の物語
皆さんも年代によって、何かしらの形で『西遊記』を観たことがあるのではないでしょうか。
日本でも、堺正章さん主演のドラマ『西遊記』や、香取慎吾さん主演の『西遊記』など、さまざまな作品が作られてきました。
そのため、「三蔵法師が孫悟空、猪八戒、沙悟浄たちを連れて天竺を目指す物語」ということは、なんとなく知っている方も多いと思います。
しかし、ドラマなどで描かれてきたのは、壮大な『西遊記』の物語のほんの一部。
原作を読んでみると、私たちがよく知る三蔵法師との旅が始まる前から、孫悟空には想像以上に壮大な物語があったのです。
そもそも孫悟空は何者なのか?
なぜ岩山に閉じ込められていたのか?
そして、なぜ三蔵法師とともに天竺を目指すことになったのか?
まずは、皆さんもよく知る「三蔵法師が孫悟空を岩山から解放する場面」よりも前の物語からご紹介していきましょう。
序章:孫悟空とは
『西遊記』の物語は、孫悟空の誕生から始まります。
花果山にあった仙石から一匹の石ザルが生まれ、やがて猿たちのリーダーとなり、仲間たちと暮らしていました。
しかし、いつか寿命が尽きることを知った石ザルは、死を超越した仙人になることを決意。須菩提祖師の弟子となり、「孫悟空」という名前と仙術を授かります。
修行を終えた悟空は、自分にふさわしい武器を求めて東海龍王の竜宮へ向かい、「如意金箍棒」を手に入れます。
その後も竜宮や冥界で騒動を起こした悟空を管理するため、天界は彼を「弼馬温」という馬を管理する役職に就かせます。
ところが、それが低い役職だと知った悟空は激怒。花果山へ帰り、自らを天にも等しい「斉天大聖」と名乗ります。
天界は悟空を討伐しようとしますが失敗し、仕方なく「斉天大聖」の称号を認め、仙桃が育つ「蟠桃園」の管理を任せることにします。
しかし悟空は仙桃を勝手に食べ、自分が蟠桃会に招待されていないことを知ると、宴会の酒や太上老君の金丹まで口にして天界で大暴れ。
怒った玉帝は、甥である顕聖二郎真君らを悟空討伐へ向かわせ、激しい戦いの末に悟空は捕らえられてしまいます。
ところが、悟空を処刑しようとしても殺すことができず、ついには釈迦如来が登場。
悟空は釈迦如来に挑みますが敗北し、五行山の下に封じ込められてしまいます。
そして長い年月を経て、悟空の前に三蔵法師が現れることになるのです。
全ては仕込まれていた? 仲間たちの物語
悟空が五行山に閉じ込められ、そこに三蔵法師がやってくる。
おそらく、ここからが皆さんのよく知る『西遊記』の物語ではないでしょうか。
しかし実は、この旅が始まる前から、三蔵法師と悟空たちが出会うための準備が進められていたことをご存知ですか?
釈迦如来は、東土に大乗仏教の経典を伝えるため、観音菩薩に経典を取りに来る者を探すよう命じます。
そして観音菩薩は東土へ向かう途中、悟空をはじめ、白龍馬、猪八戒、沙悟浄と出会い、やがて現れる取経者を守り、天竺を目指すよう導いていきます。
つまり、三蔵法師が悟空や白龍馬、八戒、悟浄と出会ったのは、単なる偶然ではなかったのです。
さらに悟空たちは、それぞれが過去に罪を犯し、罰を受けていました。
そんな彼らに観音菩薩が与えたのが、三蔵法師を守りながら天竺を目指すという道。
そう考えると『西遊記』は、三蔵法師が経典を求める旅であると同時に、**悟空たちが自らの罪を償っていく「贖罪の旅」**でもあったのです。
では、八戒や悟浄たちはいったいどのような罪を犯し、どのような経緯で三蔵法師の仲間となったのでしょうか。
それぞれの過去を見ていきましょう。
白龍馬
日本の『西遊記』を視聴している方は、「白龍馬って誰?」と思うかもしれません。
原典では三蔵法師は旅のほとんどを馬に乗って移動していますが、実はその馬の正体は「龍」。
悟空を仲間にした三蔵法師は、その後、蛇盤山の谷川に差しかかります。
すると、突然一匹の龍が現れ、三蔵法師が乗っていた馬を飲み込んでしまいます。悟空は龍と戦いますが、龍は逃げて姿を隠してしまいました。
この龍の正体は、西海龍王・敖閏(ごうじゅん)の息子でした。
かつて父である西海龍王のもとで暮らしていましたが、あるとき火事を起こし、宮殿の宝珠を焼いてしまいます。
その罪によって死刑を言い渡されますが、そこへ観音菩薩が現れ、これから天竺へ向かう取経者を助けることを条件に命を救われます。
その後、何も知らずに三蔵法師の馬を食べてしまい、悟空と戦うことになりますが、観音菩薩によって自分が待っていた取経者こそ三蔵法師だったことを知ります。
こうして龍は白馬の姿へと変わり、自分が食べてしまった馬の代わりに三蔵法師を背中に乗せ、天竺まで旅をすることになるのです。
猪八戒
続いて三蔵法師たちの仲間になるのが、皆さんもご存知、猪八戒。
しかし八戒は、もともと豚の妖怪だったわけではないって知っていました?
八戒はかつて、天界で「天蓬元帥(てんぽうげんすい)」という、水軍を率いる高い地位に就いていました。
ところが、酒に酔った勢いで月宮の仙女・嫦娥に言い寄ったことなどが罪となり、天界から追放されてしまいます。
下界へ転生する際、誤って豚の胎内に入ってしまったことがきっかけで、豚のような姿になってしまいました。
その後は福陵山に棲みついていましたが、東土へ向かう途中の観音菩薩と出会います。
観音菩薩から、いずれ天竺へ経典を取りに向かう者の弟子となり、その旅を守ることで罪を償うよう諭され、「猪悟能」という名を授けられます。
やがて高老荘で三蔵法師と悟空に出会い、三蔵から「八戒」という名を与えられ、取経の旅に加わることになるのです。
沙悟浄
最後に三蔵法師の仲間となるのが、沙悟浄です。
日本では河童の姿で描かれることが多い沙悟浄ですが、実は原典の『西遊記』では河童ではありません。
沙悟浄は、もともと天界で玉帝に仕える「捲簾大将(けんれんたいしょう)」という役職に就いていました。
しかし、天界で開かれた蟠桃会の際に、誤って大切な玻璃の器を割ってしまいます。
その罪によって天界から追放され、流沙河に棲みつく妖怪となってしまいました。
さらに罰として、七日ごとに天から剣が飛んできて胸を刺されるという苦しみを受けていたため、川を渡ろうとする旅人を襲って食べるようになります。
そんな沙悟浄のもとを訪れたのが、取経者を探して東土へ向かっていた観音菩薩でした。
観音菩薩は、これからやってくる取経者を守って天竺まで旅をすれば罪を償えると諭し、「悟浄」という名を授けます。
その後、三蔵法師一行が流沙河を訪れると悟空や八戒と戦いになりますが、観音菩薩の弟子・恵岸行者によって、自分が待っていた取経者が三蔵法師だと知ります。
こうして沙悟浄も三蔵法師の弟子となり、悟空、白龍馬、八戒に続いて、天竺を目指す旅に加わることになるのです。
ここから、みんなの知る『西遊記』が始まる
こうして三蔵法師のもとに、悟空をはじめ、白龍馬、猪八戒、沙悟浄が仲間として集まりました。
ここからいよいよ、天竺にある経典を求める本格的な旅が始まります。
しかし、天竺への道のりは決して平坦なものではありません。
旅の途中では、金角・銀角や紅孩児、牛魔王をはじめ、個性豊かな妖怪や神仙たちが次々と三蔵法師一行の前に立ちはだかります。
時には三蔵法師がさらわれ、時には悟空でさえ苦戦しながら、一行は数々の困難を乗り越えて天竺を目指していくのです。
この物語をたどってみると、悟空が誕生してから三蔵法師と出会うまでにも長い物語があり、仲間たちにもそれぞれ罪を犯した過去があります。そして、その先には数え切れないほどの妖怪たちとの出会いが待っています。
まさに、私たちが想像している以上に壮大な物語。
もしここまで読んで『西遊記』そのものが気になった方は、ぜひ一度、物語を読んでみてください。
もしかすると、「この妖怪、どこかで見たことがある!」と思える人物に出会えるかもしれませんよ。
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こうして三蔵法師一行は天竺への旅を終え、『西遊記』の物語は幕を閉じます。
しかし悟空や猪八戒、そしてかつて悟空たちに倒された妖怪たちには、**その後**が存在しています。
その“その後”を独自の解釈で描いたゲームが、**『黒神話:悟空』**なのです。
『西遊記』のその後を描く『黒神話:悟空』
ここからは、『西遊記』を読んだ方、そして『黒神話:悟空』をプレイした方向けに書かせてもらいます。
実は僕自身、『西遊記』を読まずにこのゲームをプレイしたため、登場する妖怪たちを見ても**「誰?」**という疑問を持ちながら物語を進めていました。
しかしゲームをクリアした後、改めて『西遊記』を読んでみると、
「この妖怪って、あの場面に登場していたのか!」
「あのムービーは、『西遊記』のこの物語とつながっていたのか!」
と、それまで分からなかったものが次々とつながっていきました。
そして『西遊記』を知ったからこそ、改めて**『黒神話:悟空』という作品の物語の深さ**にハマっていきました。
そこでこの章では、『黒神話:悟空』の各章に登場する妖王たちに注目していきたいと思います。
『西遊記』ではどのような妖怪だったのか。そしてゲームでは、その妖怪たちの過去や“その後”がどのように描かれているのか。
『西遊記』での物語と『黒神話:悟空』で描かれた物語をつなぎながら、必要に応じて各章のムービーにも触れ、僕なりの考察も交えて解説していきたいと思います。
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一枚の袈裟に魅せられた、金池長老・黒熊怪の物語
まず『黒神話:悟空』第1章で描かれる金池長老と黒熊怪は、実は**『西遊記』の旅の序盤にも登場している**ことをご存じでしょうか?
そして『黒神話:悟空』のムービーでは、『西遊記』で三蔵法師たちと出会うよりもさらに昔の、黒熊怪と金池長老の関係が描かれています。
ある日、まだ幼かった金池は森の中で一匹の黒い熊と出会います。
その黒い熊こそ、後に三蔵法師と悟空の前に立ちはだかる**黒熊怪(黒風大王)**でした。
黒熊怪から財宝を与えられた金池は、その後、観音禅院の僧侶となります。
そこで美しい袈裟に魅せられ、長い年月をかけて数多くの袈裟を集めるようになり、やがて観音禅院で最も位の高い住職・金池長老となりました。
そしてここから、『西遊記』本編の物語へとつながっていきます。
白龍馬を仲間にした三蔵法師と悟空は、旅の途中で観音禅院に立ち寄り、一夜の宿を借ります。
そこで金池長老は、三蔵法師が持っていた美しい袈裟を目にします。
数多くの袈裟を集めてきた金池長老でしたが、三蔵の袈裟をどうしても自分のものにしたくなり、ついには三蔵法師たちを焼き殺して袈裟を奪おうと、彼らが眠る寺院に火を放つ計画を立ててしまいます。
しかし悟空によって三蔵法師は助けられ、逆に観音禅院は炎に包まれてしまいました。
金池長老が袈裟を手に入れようとしたものの、三蔵法師の袈裟はすでに何者かによって盗まれていたのです。
寺院と袈裟の両方を失った金池長老は絶望し、自ら命を絶ってしまいます。
実は、火事の中で袈裟を盗んだのは黒熊怪(黒風大王)。
その犯人を突き止めた悟空は、袈裟を取り戻すため黒風山へ乗り込みます。
しかし黒熊怪を倒しきることができず、悟空は観音菩薩の力を借りることにしました。
観音菩薩は黒熊怪の仲間に姿を変え、悟空は仙丹に化けます。
何も知らない黒熊怪がその仙丹を飲み込むと、悟空は腹の中で大暴れ。
その苦しみに耐えきれなくなった黒熊怪はついに降参し、観音菩薩に帰依することになります。
こうして袈裟は三蔵法師のもとへ戻り、黒熊怪は観音菩薩に仕える守山大神となったのでした。
――そして、ここからが**『黒神話:悟空』の物語**が始まります。
『西遊記』から長い年月が経ち、黒熊怪は再び黒風山へと戻っていました。
しかも彼が手にしていたのは、かつて自分を倒した孫悟空が遺した六根の一つ「眼」。
黒熊怪は再び黒風山を支配し、かつての観音禅院を再興しようとします。
そして狼の妖怪たちを配下に置き、かつて命を落とした金池長老やその側近たちまでも、妖怪として復活させたのではないかと考えられます。
しかし、そうして蘇った観音禅院に、かつての神々しさはありませんでした。
そこは妖怪たちが徘徊する、危険な山へと姿を変えていたのです。
人間の国を救った妖怪:黄風大聖
第2章に登場する黄風大聖は、『西遊記』では猪八戒が仲間になった直後に、三蔵法師一行が出会う妖怪です。
ここまでは『黒神話:悟空』でも、『西遊記』に登場した順番に近い形で妖怪たちが登場しています。
それでは、黄風大聖とはどのような妖怪なのか。彼が歩んできた物語をご紹介しましょう。
物語の舞台となるのは、かつて流沙国と呼ばれていた国。
流沙国では、日が沈む頃になると大きな音が鳴り響き、人々を苦しめていました。そこで仏から「落日鼓」と呼ばれる宝具が授けられ、その音を防げるようになります。
人々は仏に感謝し、国では仏教への信仰が広がっていきました。
しかし、国民が自分よりも仏を敬うようになったことを国王は快く思わず、やがて寺院を壊し、僧侶を追い出す廃仏政策を始めます。
そして流沙国は、斯哈哩国へと名前を変えました。
そんな斯哈哩国に現れたのが、巨大な妖怪**蝜蝂(ふばん)**です。
国の軍隊では倒すことができず、人々が苦しめられる中、一匹の黄毛貂鼠が現れます。その黄毛貂鼠こそ、後の黄風大聖でした。
黄風大聖は人間たちと協力して蝜蝂を倒し、斯哈哩国を救います。
妖怪でありながら人間の国を救った黄風大聖は英雄として迎えられ、やがて斯哈哩国の国師となりました。
さらに黄風大聖は鼠妖たちにも暮らす場所を与えようとし、国では鼠を殺すことを禁じる「敬鼠令」が出されます。
こうして斯哈哩国では、人間と鼠妖が同じ国で暮らすようになっていきました。
しかし、そんな斯哈哩国に異変が起こります。
人間だったはずの国民たちが、次々と鼠の姿へと変わり始めたのです。
自分がこの国にやって来たことで災いを招いてしまったと考えた黄風大聖は、責任を感じて斯哈哩国を去ります。
そして、ここから『西遊記』の黄風大聖の物語へとつながっていきます。
『西遊記』では黄風大聖は黄風怪として登場します。
もともとは霊山にいた黄毛貂鼠の精でしたが、灯明の油を盗み食いして逃げ出し、黄風嶺で妖怪たちの大王となっていました。
そこへ天竺を目指す三蔵法師一行がやって来ます。
黄風怪は三蔵法師を捕らえ、悟空たちと戦うことになりますが、最大の武器である「三昧神風」によって悟空を苦しめます。
悟空だけでは黄風怪を倒すことができず、最後には霊吉菩薩の力を借りることになります。
霊吉菩薩によって黄風怪は正体である黄毛貂鼠へと戻され、再び霊山へと連れ帰られていきました。
しかし、それから長い年月が経った『黒神話:悟空』では、黄風大聖は再び黄風嶺へと戻っていました。
そして彼もまた、孫悟空が遺した**六根の一つ「耳」**を手にしていたのです。
黄風大聖のもとには鼠妖たちが集まり、黄風嶺一帯は再び妖怪たちが蔓延る危険な地となっていたのです。
人間の欲深さを証明したかった妖怪:黄眉大王
『黒神話:悟空』の第3章に登場した黄眉大王は、『西遊記』では牛魔王との戦いの後に出会った妖怪です。
『黒神話:悟空』では、黄眉大王と金蝉子(のちに三蔵法師へと転生する人物)の過去が明らかになります。
ある貧しい村に、一人の妖怪が流れ着きました。
その妖怪がやって来たことで村は豊かになり、人々は次第にこの妖怪を仏として崇めるようになります。
しかしある祝祭の夜、一人の男が妖怪から出てくる宝物に目が眩み、妖怪を引き裂いてしまいました。
それをきっかけに多くの村人たちも宝物に目が眩み、村では欲望による争いや奪い合いが起こり、最後には廃村となってしまいます。
そこへ、一人の若い僧侶が訪れます。
彼こそが金蝉子。黄眉とは古くから人間の本質について意見を交わしてきた人物であり、のちに三蔵法師へと転生する存在でもありました。
実はこの出来事こそ、黄眉が人間がいかに欲深い存在なのかを金蝉子に証明するために仕組んだものだったのです。
人々に豊かさを与えても、その欲望が満たされることはない。
黄眉は村人たちの姿を通して、人間の欲深さを金蝉子に証明しようとしたのでした。
そしてここから長い年月が経ち、三蔵法師一行は天竺へ向かう途中、小雷音寺へとたどり着きます。
三蔵法師たちは本物の寺院だと思い中へ入りますが、そこにいたのは如来に化けた黄眉大王でした。
偽物だと見抜いた悟空は黄眉大王に襲いかかりますが、弥勒菩薩から盗み出した宝具「金鐃」に閉じ込められてしまい、三蔵法師たちも捕らえられてしまいます。
悟空は天界に助けを求め、二十八宿の一人・亢金龍の力を借りることで、なんとか金鐃から脱出。
しかし黄眉大王には、もう一つ強力な宝具がありました。
それが、あらゆるものを吸い込んでしまう**「人種袋」**です。
悟空は黄眉大王を倒すため、二十八宿をはじめ、真武大帝のもとから亀蛇二将と五龍、さらに国師王菩薩のもとから小張太子と四人の将軍を援軍として呼び寄せます。
しかし、これだけの援軍を集めても黄眉大王には敵わず、人種袋によって次々と捕らえられてしまいました。
悟空が困り果てていたところへ現れたのが、弥勒菩薩でした。
ここで黄眉大王の正体が明らかになります。
実は黄眉大王は、もともと弥勒菩薩のもとで磬を鳴らす黄眉童子だったのです。
弥勒菩薩が留守にしている間に金鐃や人種袋などの宝具を持ち出し、自らを仏と偽って小雷音寺を作り上げていたのです。
弥勒菩薩は悟空と協力し、瓜畑を作って黄眉大王をおびき寄せ、悟空は瓜に化け、それを黄眉大王に食べさせることで体内へ侵入。
腹の中から暴れ回ったことで黄眉大王はついに降参し、最後は弥勒菩薩によって連れ戻されることになりました。
しかし長い年月を経た**『黒神話:悟空』**では、黄眉は再び小西天へと戻っていました。
彼もまた、孫悟空が遺した**六根の一つ「鼻」**を手にしていたのです。
孫悟空の死後、黄眉はかつてと同じように小雷音寺を拠点とし、自らが信じる「極楽」の世界を作り上げていきます。
しかも今回は、かつて『西遊記』で自分と戦った者たちまで小西天へと呼び寄せていました。
亢金龍、亀蛇二将、小張太子たち――。
かつて悟空に協力して黄眉と戦った者たちが、今度は黄眉によって捕らえられたり、その支配下へと置かれたりしていたのです。
切ない愛の物語:猪八戒と紫蛛児
第4章では、猪八戒と紫蛛児の過去の関係について深掘りされています。
この物語の舞台となる盤糸洞は、『西遊記』では物語の終盤に登場します。しかし『黒神話:悟空』では、原作では語られなかった猪八戒と紫蛛児の関係が新たに描かれているのです。
猪八戒がなぜ妖怪になったのかは前章で説明しましたが、かつて天蓬元帥だった頃、月宮の仙女・嫦娥に言い寄ったことが原因で天界を追放されました。
しかし『黒神話:悟空』では、この頃すでに猪八戒と紫蛛児が出会っていたことが明らかになります。
三蔵法師一行は盤糸嶺へと差しかかりました。
これまで食事をもらいに行くのは弟子たちの役目でしたが、この日は珍しく三蔵法師自らが食事をもらいに行きます。
三蔵法師が家を訪れると、そこには若い女性たちがいました。
しかし彼女たちの正体は、盤糸洞に棲む七人の蜘蛛精。
三蔵法師は蜘蛛精たちに捕らえられてしまいます。
三蔵法師が戻ってこないことを不審に思った悟空が様子を見に行くと、蜘蛛精たちが濯垢泉で湯浴みをしていることを知ります。
悟空は彼女たちを直接倒すことはせず、鷹に化けて衣服を奪い、三蔵法師を助けに戻りました。
しかし八戒は、「妖怪を残しておけば後々災いになる」と考え、自ら蜘蛛精たちを倒しに向かいます。
そして濯垢泉へ乗り込んだ八戒はナマズに姿を変え、七人の蜘蛛精たちと戦うことになるのです。
ここまでが、『西遊記』で描かれた猪八戒と蜘蛛精たちの出会いです。
しかし『黒神話:悟空』では、この出来事にもう一つの物語が隠されていました。
七人の蜘蛛精の中にいた一人こそ、かつて天蓬元帥だった八戒と出会っていた紫蛛児だったのです。
その後、『西遊記』では悟空たちと蜘蛛精の戦いが続き、八戒は七人の蜘蛛精を倒すよう命じられます。
八戒は次々と蜘蛛精を倒していきますが、最後の一人を前にして手を止めました。
その相手こそ、紫蛛児だったのです。
八戒は紫蛛児を殺すことができず、彼女を逃がします。
こうして生き残った紫蛛児は、その後も盤糸洞で暮らし続け、長い年月を生きることになります。
そして長い年月が経ち、天命人と八戒が盤糸洞を訪れたことで、二人は再び出会うことになります。
しかし長い年月が経ってもほとんど姿の変わらない八戒に対し、紫蛛児はすでに老婆の姿になっていました。
さらに盤糸洞には、紫蛛児の娘である蜘蛛精たちが暮らしており、その中でも末娘の六妹は、八戒と紫蛛児の間に生まれた娘だったことが影神図から明らかになります。
紫蛛児は長い年月が経っても八戒への想いを捨てることができず、しかし八戒は、彼女のもとに留まることなく、再び旅を続ける道を選びます。
『西遊記』では、八戒と蜘蛛精の間にあった短い出来事。
『黒神話:悟空』ではその裏側に、何百年もの間すれ違い続けた二人の愛の物語があったと描き直しているのです。
道を違えた義兄弟:悟空と牛魔王
これまで紹介した妖怪たちは、三蔵法師一行と冒険をしていた際に遭遇した妖怪たちでしたが、第5章に登場する牛魔王は、彼らとは少し事情が違います。
なぜなら牛魔王は、かつて孫悟空と肩を並べて戦った義兄弟だったからです。
悟空がまだ三蔵法師と出会うよりも昔、牛魔王は悟空と義兄弟の契りを結び、共に天界を相手に戦っていました。
しかし長い年月が経ち、三蔵法師と天竺を目指す旅に出た悟空と牛魔王は、今度は敵として再会することになります。
『西遊記』の火焔山では、鉄扇公主から芭蕉扇を借りようとする悟空たちと牛魔王一家が対立。
激しい戦いの末、牛魔王は天界や仏門の力によって捕らえられ、仏門へと帰依することになりました。
かつて共に天界と戦った悟空と牛魔王は、いつしか別々の道を歩むことになります。
そして取経の旅が終わり、さらに長い年月が経った頃。
花果山へ戻った悟空は、再び天界と対立します。
しかしこの戦いで牛魔王が立ったのは、かつてのような悟空の隣ではなく、悟空を討つ側だったのです。
そして牛魔王は、かつての義兄弟だった悟空の最期を目の当たりにすることになります。
悟空の死後、その六根は分かれ、牛魔王にはその一つである**「身」――身本憂**が渡されました。
悟空討伐に加わった功績によって火焔山へ戻ることを許された牛魔王でしたが、以前とは別人のように変わっていました。
かつての豪快さは影を潜め、宴にも出ず、家族と静かに暮らすようになります。
そして悟空から得た「身本憂」を誰にも渡すことなく、自らの腹の中に隠し続けていました。
そんな牛魔王のもとへ、やがて息子の紅孩児が戻ってきます。
紅孩児は『西遊記』で観音菩薩に降伏した後、善財童子となっていましたが、『黒神話:悟空』では再び火焔山へ戻っています。
しかし自らの出生にまつわる事情を知った紅孩児は復讐を望むようになり、父・牛魔王が隠し持つ「身本憂」を求めるようになります。
牛魔王は、息子が再び大きな争いを起こして命を落とすことを恐れ、「身本憂」を渡そうとはしませんでした。
そして紅孩児を閉じ込め、自らの坐騎である璧水金睛獣に見張らせます。
ところが紅孩児は脱出。それを追った璧水金睛獣と戦い、紅孩児は瀕死の状態となります。
その姿を見た牛魔王は息子を助けるため、長年連れ添った璧水金睛獣を攻撃し、追い払ってしまいました。
しかし――紅孩児の負傷は芝居だったのです。
息子を助けようとした牛魔王は、その情を逆に利用されて、深傷を負い拘束され、立場は完全に逆転。
かつて息子を閉じ込めていた父親が、今度は息子によって囚われることになったのです。
そして、この状態の火焔山へやって来るのが天命人と猪八戒でした。
第5章で描かれているのは、単なる牛魔王一家の争いではなく、かつて肩を並べて戦った悟空と牛魔王が別々の道を歩み、悟空の死後もなお、その因縁に縛られ続けた牛魔王の物語でもあるのです。
孫悟空が遺した最後の六根・二郎真君との約束
ここで、『黒神話:悟空』の本当の物語が明らかになります。
ここまで天命人は、黒熊怪、黄風大聖、黄眉大王、そして牛魔王たちのもとを巡り、孫悟空が遺した六根を集めてきました。
しかし、ここで一つの疑問が残ります。
なぜ孫悟空は、死んだのか?
『西遊記』の最後で天竺への旅を終えた悟空は、「闘戦勝仏」となります。
しかし『黒神話:悟空』ではその後、悟空は天界で暮らすことを望まず、再び花果山へと戻っていました。
ところが、悟空が自由に生きることを天界は許さず、花果山へ天兵たちを送り込みます。
そして悟空は、かつて自分を捕らえた二郎真君と再び戦うことになります。
これこそが、『黒神話:悟空』の冒頭で描かれた戦いです。
悟空は二郎真君と激しい戦いを繰り広げますが、その最中、すでに外れたはずの緊箍児が再び頭に現れ、悟空を締め付けます。
そして悟空は敗れ、命を落とすことになりました。
悟空の死後、その力は仏教における六根――**「眼・耳・鼻・舌・身・意」**になぞらえた形で遺されることになります。
天命人がこれまでの旅で集めてきた、悟空が遺した六根。
しかし、六根のうち最後の一つである**「意」**だけは、二郎真君が持っていたのです。
天命人は再び二郎真君と対峙し、激闘の末、彼の第三の眼から悟空が遺した記憶を受け継ぎます。
さらに悟空がかつて身につけていた武具や如意金箍棒を集め、悟空の亡骸ともいえる**「大聖の残躯」**と戦ったことで、この物語の本来の意味が見えてきます。
悟空は『西遊記』の旅を終えて仏となっても、完全な自由を手に入れたわけではありませんでした。
どこへ行こうとも、自分を縛り続ける緊箍児から逃れることはできない。
ならば、一度「孫悟空」として死に、新たな存在へ自分の意志を受け継がせる。
そのために悟空は自らの六根を遺し、後に現れる天命人へと自分の力を託したのではないかと考えられます。
そして二郎真君もまた、その計画を知っていた可能性があります。
悟空の六根のうち、最後まで残されていた「意」にあたる記憶を守り、いつか悟空の意志を継ぐ者が現れるのを待っていた。
そう考えると、物語冒頭で悟空を倒した二郎真君は、単なる悟空の敵ではなく、孫悟空を最も理解していた者の一人だったのではないでしょうか。
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まとめ
今回は『西遊記』の物語を振り返りながら、『黒神話:悟空』に登場する妖怪たちの過去や、『西遊記』からどのようにつながっているのかをご紹介しました。
僕自身、『西遊記』を読まずにゲームをプレイしたため、分からないことも多かったのですが、改めて原作を読んでみると、
『西遊記』の壮大な物語に加え、『黒神話:悟空』に登場する敵妖怪たちの過去も明らかになり、ますます『西遊記』の物語や登場人物たちの奥深さを楽しむことができました。
時間が経つほど、さらに奥深さを感じられる。
それも『西遊記』の魅力の一つなのだと思います。
この記事をきっかけに、ぜひ『西遊記』を読んで、『黒神話:悟空』をプレイ、または再プレイしてみてください!
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